以前ぼくが SearchMan 柴田さんと行った対談の記事「しば談: 非ゲームアプリのマーケティングについて語ったよ」を読んで、インスパイアされた App Annie 向井さん。
彼の発案により、実際の非ゲームアプリの中の人を AppLovin オフィスにお招きして対談してしまいました!
勝手にスピンアウト企画w
小売・飲食のアプリ領域で革新的な取り組みをされているということもあり、相当とんがった貴重な内容になっていると思います!
[ゲスト]
濱野 幸介さん (良品計画)、神谷 勇樹さん (リノシス)
[モデレータ]
向井 俊介さん (App Annie)、坂本 達夫どん (AppLovin)
[議事録]
高木 千尋さん、芳田 佳奈さん (いずれも App Annie)
<以下敬称略>
坂本:よろしくお願いします。濱野さんの肩書きの「CMT」って何なんですか?
濱野:「チーフマーケティングテクノロジスト」です。無印良品の中の Web 事業部にいまして、3 年前からアプリ「MUJI passport」に関わり始めました。
坂本:マーケティングテクノロジスト、カッコいいw その前はどちらにいらっしゃったんですか?
濱野:2000 年から 2008 年までアクセンチュアにいて、そのあとリヴァンプに入りました。
坂本:おぉリヴァンプ...社長の湯浅さんと仲いいです、ゼミの先輩でして。
濱野:えー、世界狭いですね!当時リヴァンプは企業再生をメインにやってましたけど、2008 年ぐらいから IT とマーケティングについての会社を作ってちゃんとやろうということで、新しく「リヴァンプ・ビジネスソリューションズ」という IT の社長を 4 年位やってたんですよ。
坂本:アクセンチュアとかのように、コンサルをして、システム入れて、上流から開発・運用までやるイメージですか?
濱野:というよりは「事業を伸ばすために IT をどう使うか」というところを磨く会社で、人材も含めてクライアントに内製化を推奨して支援するようにしていたんです。上手く回るようになったら切ってくれてもいいです、と。
坂本:面白いですね。離れることがゴールということですね。
濱野:なかなか離してくれないんですけどね(笑)。で、その初期のほうでやっていたのが良品計画で、本部向けの業務の仕組みとかを作ったりしていました。
坂本:へぇー。濱野さんご自身も現場で?
濱野:元々はインフラエンジニアでしたよ。
坂本:ゴリゴリに書いてたんですね。
濱野:はい。リヴァンプ時代には東急ハンズさんの CRM のお手伝いみたいなのもやっていて。その噂が (当時 良品計画 WEB 事業部長の) 奥谷さんの耳に入って、捕獲された的な(笑)。
坂本:そういう流れでジョインされたんですね。
濱野:で、そこから 3 年ぐらいかけて MUJI passport を作って、その間は分析官としてデータを分析するなどしていました。実際にプログラムも書いたりもしましたね。
坂本:じゃあ次は神谷さんのプロファイルを教えてください。
神谷:直近まではすかいらーくにいて、データ分析やアプリや CRM の立ちあげをやっていました。その前は GREE に 3 年ほどいて、
坂本:なんと、GREE にいらっしゃったんですね。ゲームを作られてたんですか?
神谷:ゲームではなく事業企画とかプラットフォーム寄りですね。GREE のときはホント雑多なことをやっていて、San Francisco の立ち上げでオフィス探したり、借りたオフィスにネットワークを敷いたり、並行して会社買収に向けたデューデリや交渉や VISA の申請をしたり。その後日本に帰国したあとは、事業企画にいたのになぜかデータ分析をするための仕組みを開発して KPI 分析したり。
坂本:へぇ〜。
神谷:当時 GREE の売り上げが半年で 2 倍ってペースで急成長していた時期で、スマホどうするんだっけ?ブラウザゲームとネイティブとどっちがいいんだっけ?みたいな議論がされていましたね。ガラケーのゲームをそのままスマホに移植してもどうにかなっちゃった、みたいな時代です。
坂本:ネイティブ全盛になるより前の時代ですね。
神谷:そうですね、2013 年くらい。それからすかいらーくに入りました。
坂本:凄いジャンプですよね。なんですかいらーく?元 GREE の人とか、ネット畑の方とかいらっしゃったんですか?
神谷:いや、いないですね。
坂本:ですよねw普通行かないですよねww
神谷:行かないですね(笑)。当時 35 歳位だったので、次の職場で大きな成果を出したいと思っていて。それまで分析や IT / ネットの近くにいたんで「自分のスキル・ノウハウが活きる、まだそういうのが活かされていない」企業にいくべきだと思ったんですよ。例えばリクルートとかは選択肢から真っ先に消えました。そうじゃないところを探して。
坂本:割とレガシーなところを狙ったわけですね。
神谷:そう。残ったのはマクドナルド、スシロー、すかいらーくで。
坂本:なるほど、渋いっすねえ。
神谷:「数字を見て分析して PDCA を回す」というのがネット業界ではちゃんとやられていて、むしろそれがド真ん中ですけど、結構その他の業界ってそれが真ん中じゃなくて、思いつきで意思決定されているようなところもあって。こういう商品を作りたい、とか職人がそのまま経営している感じだったりするんで、例えば寿司屋だったら「この中トロとこの設備どっちに投資するのどっちがいいんだっけ?」みたいのが並列にならんじゃうイメージ。
坂本:中トロと設備投資が天秤にかけられるとかww
神谷:データとかシステムとかを本気でやってるところが少なかったから、これならちょっとやればすぐ成果でるだろうと。ネットの業界でやっていたことを外食で横展開してみたらどうなるか、というチャレンジですね。
坂本:なるほどー。
神谷:当時テレビ CM をすごくやっていたんですが、ちゃんと分析してみたら、実は TVCM よりも新聞折込チラシの方がかなり費用対効果が高いことが分かって。
坂本:へー新聞折込チラシが。
神谷:実は使えるメディアで。新聞折り込みが入れられるところは全部入れました。で、残ったお金でデジタル立ち上げた感じです。最初の年から半年くらいで広告宣伝費は 10% 以上、数億円規模で減らして、売り上げ成長がここ最近で最高、みたいな。
坂本:一般的な肌感覚がわからないんですけど、売上に対する広告宣伝費って飲食業界はどのくらいが相場なんですか?
神谷:1.5~1.6% 位ですね。マクドナルドが一番使ってて、3% ちょいとか。
濱野:マクドナルドの売り上げ規模で 1.5~3% とかなので、それよりシェアが小さいチェーンが同じぐらいの割合の広告宣伝費を使っても、数倍の開きがあるんですよね。中途半端に同じことやっても、かき消されるんですよ。
坂本:そっか、売り上げ規模が違うから、かけてるパーセンテージが一緒でも額が全然違うんですね。
神谷:飲食業界では大きくても広告費は数十億円で、自動車とか化粧品とかゲームにはかなわないんですよ。でもネットの広告だけではマスにアプローチするのはきついので、自社で媒体作った方がいいんじゃないのってなって。
神谷:リアルのお店があるので顧客接点は強いんですよ。当時のすかいらーくは、お客さん 1 人あたりの年間平均来店回数が 3〜4 回で、ユニークで 7,000 万人くらい、人口の 6 割くらい。ファミレス嫌いで絶対こないような方を除くと、既に結構来てはいただいていると。なので、年 3〜4 回の来店のときに何か顧客接点を作って、リピートを増やすことができればいいよね、と。
坂本:3〜4 回なんですね。思ってたより少ない。
神谷:少ないですよ、だからアプリができるギリギリくらいなのかなと。
濱野:3〜4 回か、うちより少ないですね。
神谷:当時、すでに携帯のメルマガ会員が 900 万くらいいたんですが、そこに対してあまりやってないよね、ちゃんとやればもっと行くよねと。で、アプリを作ってそれらのユーザーにアプローチして、最初の 1 年で 500〜600 万 DL いって、さらに半年たって 700 万 DL くらいユーザーいるんですけど。
濱野:越された…!(笑)
坂本:メルマガだけでそんなに集まったんですか?
神谷:いや、色々頑張ってますよ(笑)。小売ってすごい面白くて、店舗っていうすごい強い顧客接点があって、そこを上手く使うと一気に集客できるんですよ。この間の坂本さんが出てた対談記事 (非ゲームアプリのマーケティングについて語ったよ) を読んでそうだよなあって思ったのが、非ゲームの業界でも小売とか飲食ってやっぱりアプリやった方がいいなあって。実際 100 万人ぐらいのユーザー数があれば、売り上げ貢献でも億単位とかいくってことが経験上分かってるので、やらないのがもったいない。
坂本:なるほど。お二人の話を伺っていて共通していたのが、アプリは「CRM (*)」っていうところ。まずゲームでは出てこないキーワードですよね。顧客管理の一環としてのアプリなんだな、って感じて。
神谷:GREE では言ったことないですね(笑)
坂本:ゲームだとアプリを出して、ユーザーがアプリの中でお金を使えばよっしゃ、なんですけどそうではないんだろうなって思って。なので、何のためにそもそもアプリを始めて、今は何のためにアプリをやっていて、何が達成できたらアプリは成功といえるのかを社内的に定義しているのかを聞きたいです。
神谷:小売・飲食だと売り上げが全てに近くて、それを底上げできたか、みたいなところですね。
坂本:売り上げは店舗の売り上げですか?
神谷:そうです。アプリ使ったお客さんからの売上っていうだけじゃなくて、アプリが無かったらそのお客さんは来なかったんだっけ?というのも見ていて。
坂本:どれだけ純増に貢献したの、ってことですね。
神谷:某企業でいうとレジ通過の 10〜20% がアプリ使っているんですけど。
坂本:結構多いですね。
濱野:まだ 10〜20%?
坂本:えっ。
神谷:まだ 10〜20% です。無印良品は 30% くらいでしょ?
濱野:30% くらい。レジ通過に占めるアプリ利用率が KPI です。
神谷:それだと、全体売上が 1,000 億円くらいだとすると、100〜200 億くらいがアプリ経由って感じなんですけど、当然その中でもアプリが無くても来た人いますよね?と。アプリがあった “からこそ” 来たお客さんの売上貢献ってどれくらいなの、っていうのをちゃんと計算していて。
坂本:それはアプリを使っているユーザーの過去のデータを見て、来店頻度や単価がこれくらい上がったよね、というのを見てるんですか?
神谷:2 パターンあります。1 つはクーポンを出すみたいな施策で、解りやすくて、クーポンを配布している人とそうじゃない人を比べて見てます。クーポン無くても来る人ってこれくらいいたよね、クーポン出した人はこれだけ来てたから、クーポンの効果ってこれくらいだよね、というやり方。
坂本:なるほど、クーポンを配ったかどうかでユーザーを分けて、差分を見るわけですね。
神谷:もう 1 パターンは坂本さんが今言った通り、その人の過去の履歴と比べてみる。来店頻度が、アプリを出す前後でどう変化したのかを見比べる。
坂本:アプリを DL する前から同じユニークのユーザーを追っかけてる、ってことですか?
神谷:運が良いと、T ポイントとか Ponta ポイントとかがあるんで、ID を追っかけられるんですよね。
坂本:あー、なるほど。
濱野:うちは “before アプリ” のデータがなかったんすけど、追っかけ方は基本一緒です。
坂本:さっき無印良品の KPI はアプリ利用率っておっしゃってましたよね?
濱野:はい。元々 MUJI passportになる前の話なんですが、無印良品でも CRM みたいなことをしたいよねっていう話になった。なんとなくわかると思うんですけど、無印良品ってすごくファンに支えられている会社なんですよね。
坂本:ぼくも文房具とか好きで、愛用してます。好きな人はめちゃめちゃ好きですよね。
濱野:だから管理と言うより、より多く無印良品というブランドに触れてもらって、結果として客数が増えて、売り上げも上がるよね、っていうのが元々の発想なんですよね。だから元々の名称も passport じゃなくて「MUJI ファンクラブ (仮)」という名前だったんですよ。
一同:ベタですねー(笑)
濱野:だから最初はアプリの話じゃなくて、物理カードを配って会員と名乗ってもらってコミュニケーションするというのを考えていたんですよ。
坂本:コンビニでとかよくある「T ポイントカードありますか」、みたいなやつですね。
濱野:そう。ただ、やる前からいろいろ問題もわかっていて。その大きなものの 1 つが、紙のカードでやってしまうと、後から WEB に引き上げないといけないんですよね。ユーザー情報を登録してもらわないと色々わからないし、コミュニケーションも取れないんですけど、その登録率が悪かったり、情報入力を間違うっていうのは事前にわかってたんです。自分自身、他社の会員プログラムを、リヴァンプ時代にやってたりしたから。
坂本:紙でやっちゃうとそのあと正確な情報に昇華できないよ、と。
濱野:そう。あと、発行してる枚数に対して、得られているアクティブな情報が少ないというのもある。
坂本:50 万人に配ってるのに、会員情報まで取れているのは 2 万人しかいません、みたいな?
濱野:そこまで行ってくれればいいくらいの。
坂本:そんなレベルなんですね。
濱野:そんなレベルに下手したらなっちゃう。で、色々考えてたのが 2012 年の頃で、2013 年に初めてスマホ普及率が 40% くらいになると言われていた時代なんですが、まずアプリの方に舵を切って PR を含めて出してみようということになって。クリエイティブディレクターの方と一緒に、名前やコンセプトから決めて、出したのが MUJI passport というアプリだった。
坂本:最初から紙じゃなくてアプリで始めてたんですね。
濱野:正確には「アプリを中心として」っていう感じ。アプリから入れない人もカバーできるように作ってありました。
坂本:例えば、まだスマホ持っていない人とか?
濱野:そうそう。スマホのアプリだけじゃなくてガラケーでも、ログインするとちゃんとバーコードが表示されるようにしてあったんですよ。その他のものも全部カバーしてありました。例えばハウスカードを発行してるので、ハウスカードでも会員。
坂本:ハウスカードってクレカですか?
濱野:そうです、クレディセゾンさんから発行してもらっています。元々アプリの前から MUJI Card も発行していたので、そういう人も皆このプログラムに入れるように、ってしてます。だからアプリがリリースされたその日から、ハウスカードは会員証になって、それまでは単に決済する道具でしかなかったけど、これも会員証にもなるようにしました。
坂本:なるほど、面白い。
濱野:だからアプリはあくまで一つでしかないんですね。その上で何を KPI にするのか、というところなんですけど、アプリを使って売上をどのくらい上げられるのか、に関係してくるんです。元々色んなプログラムやってて分析ができてたらそこから何%上がったか分析できるんですけど、before がなかったのでそこはわかりませんと。
坂本:before / after の比較が出来ないわけですね。
濱野:ただ確実に言えるのは、発行したこのポイントでどれくらい売りが上がったのかっていうのは測定できるので、その部分はこれくらい効果ありましたよねとは言える。できれば、さっきの神谷さんのお話のように、ポイント配ってない人に比べてこれだけ上がってるんだから、クーポン使ってない人でこれだけ上がってるんだから、っていうパーセンテージで語るわけです。
坂本:差し支えなければ、実際どれぐらい効果があるのかって教えてもらえますか?
濱野:会員になっていただけた方のレジ通過がプラス 1 回、というのが元々の意図で、実際の来店の回数も 1 回分くらいは増やせてきてて、客数は前年と比べても調子がよかった、っていうのが結果です。
坂本:でも、ニワトリとタマゴじゃないですけど、「そもそもアクティブな人がアプリをやってるんでしょ」っていう可能性もあると思うんですよね。アプリをやったからアクティブになったのか、元々アクティブだった人がアプリを使ってるだけなのかでいうと、アプリにお客さんを寄せていくときちんと数字も伸びていくっていうのがデータや感覚的に見えてるんでしょうか?
濱野:少なくとも色んなデータを分析していると、上がっているよねというのが見えていました。
濱野:あと現場の感覚も結構大事で、というのも、現場で一声かけてもらうかどうかによってアプリの DL 数が劇的に変わるんですよ。
坂本:実際に店舗で「アプリはお持ちですか?」って声かけるように、店舗への周知をやったんですか?
濱野:はい。リリースの時にそれが一番重要だからとしこたま言いました。最初から、必ず「パスポートお持ちですか?」と声かけてもらうようにしました。無印良品の場合、それが成功したんですよ。成功しないケースも結構多くて、例えばアプリの登録エラーが頻発して「なんで登録できないんですか?」って店員さんがお客さんに言われたりすると、店員さんが結構声をかけなくなったりするような現象が起きる。
坂本:店員さんがちょっと嫌になっちゃったり?
濱野:はい、それって結構多いんですよ。例えばフィーチャーフォンで felica が会員証になりますって時、felica のロックとメールのドメインのロックがかかってたりして登録できないっていうのがあるんですよね。機種ごとにロック解除の仕方が違うので、毎回のように店員さんに聞かれる。「なんでできないんですか?」って。でも店員さんでは分からないことの方が多い。そうすると「もう言わないでおこう」ってなるじゃないですか。
神谷:私の場合は逆、店員には絶対負荷をかけないようにしてます。
坂本:えー、なんでなんですか?
神谷:今は人手不足でただでさえ現場は大変ですから。。
坂本:余計なことを店員にやらせるな、みたいな?
神谷:そう、絶対にやってもらわない方がいい。だから「店員が何もしなくても DL が伸びるように」って考えてます。やり方はシンプルで、店内のメディアをひたすら使うっていうだけです。
坂本:POP とかポスターとかですか?
神谷:あと大きいのがメニューですね。例えばメニューの値段の横に「このメニューがアプリだと●●円」と書いておけば、損した気分になるじゃないですか(笑)。それでDLしてくれる。毎月 数十万 DL はお店から。
坂本:毎月数十万 DL ってすごいですね、だって普通に 1DL数百円とかかけてたらそれだけで 1 億円前後って規模ですよね。
神谷:そうそう。だからインセンティブ設計とかは結構しっかり考えてて。下手するとすごい勢いでお金が出て行っちゃうんで。
濱野:めっちゃ大事。
神谷:500 万ユーザー × 250 円 (割引) だと何億だっけ?みたいな世界じゃないですか。クーポンで色々実験したんです。クーポンって面白くて、種類によって利益に対するインパクトが全然違うんですよ。集客力と利益率の違いで。
坂本:どういうことですか?
神谷:例えば、(携帯の画面を見せながら) こういうお子様ランチ系は原価が安くないから、元々単体では利益は大きくないんですよ。でも、子供は一人で来ないのでクーポンを出すと自動的に親が付いてくる。親は定価に近いような値段で食べてもらえるんで、おしなべるとプラスになる。
坂本:100 円割引しても 3 人で来てたら 1 人 33 円分のコスト、みたいな?
神谷:ですです。ディナーで来ると親は結構粗利が高いものを頼んでもらえるので even になるよね、みたいな。あと例えば、同じ 200 円割引するときも、800 円のメニューを 200 円引くのと 299 円のメニューを 99 円にするのでは効果はぜんぜん違うんですよ。価格弾力性曲線とかも分析してて、いくらからいくらに価格が変わるとどの程度購買意欲が変わるかっていう。
向井:ちゃんとそういう分析されてるんですね。
神谷:ちゃんとやりますよ、商品ごとに。それで値段どうするかを決めてるんですよ。他の例でいうと、例えばデザート。デザートって皆さんそんなに頼まないじゃないですか?ハンバーグ食べて、ライス食べて、コーヒー飲んだらお腹いっぱいになるんで。
一同:確かに(笑)。
神谷:それが、一定程度の値段以下にすると、「こんだけ安くて今だけなんだったら、もったいないから頼もうか」ってなるんですよ。普段のセットに加えて。デザートがあるからライスやめようか、とはならないんで。
一同:ならない。
神谷:そういう意味ではプラスオンになるんですよ。ディスカウントしているようで、粗利としては積んでるっていう。こういうクーポンを使い分けると集客コストで考えても数円とかになるんですよ。そうすると何百万 DL されていても安心。
濱野:コーヒー無料とかもそうですよね?来店そのものの動機にはなる。
神谷:それは業態とかによって結構違っていて。ファーストフードとかカフェ的なところなら「コーヒー無料だったら行ってみようか」ってなるけど、完全にディナーレストラン的なところだったら「コーヒーが無料だから行くか」とはならない。
坂本:確かに...コーヒー無料だからって理由でディナーのお店は選ばないですね。
神谷:逆に、集客はできないのに、みんなもともと食後のコーヒーは頼んでいたはずなのにそれが無料になっちゃって、アドオンにならずに懐だけが痛む。数百円取れてたのが 0 円になって、その数百円がダイレクトに利益を削る。業種によって違うので、特性考えないでやると痛い目にあう。
坂本:今も、同じようなことやられてる他の事業者のクーポンとか、アプリでどういうことやってるとかは見られてます?
神谷:見てます。
濱野:無印良品ではあまり見てないですね。ちょっと他とは違いますからね、再現性がない(笑)。
坂本:どの辺が再現性のなさに繋がってるんですか?
濱野:ハイブランドでもないし、無印良品の競合ってどこ?っていうのが難しい。
向井:ユニクロでもニトリでも IKEA でもないし。
濱野:でもカレーは売ってる(笑)。見方によっては、ハウスメーカーも競合かもしれないんですよ。家売ってるし。
坂本:確かにw家展示してますもんね。
濱野:だから結構難しいんですよ。無印良品の場合は独自の CRM になってるから、他社事例もベンチマークはするけどそのままは真似できないって感じ。
神谷:大衆系のブランドはそのまま真似できるんですよ。例えば同じような飲食店は、基本同じ客層だったりするから、似たようなアプリになってたり(笑)。
濱野:そうですよね。日用雑貨品のお店でもアプリ出してるところ多いですけど、同じようにならないんですよね、やっぱり。
坂本:みんな違うんですね。
濱野:みんな違うし、思ったように DL されないっていう声は多かったりする。そもそも元々の店舗への来店回数をが少ないのに単純にアプリを作っちゃったりすると、意味あるの?ってなる。逆にスーパーマーケットとかは来店頻度も高くて、元々会員カードやってるし、合ってると思うんだけど、なかなかやらないですよね。
坂本:めっちゃ効きそう。頻度多いし、チラシみたいなプッシュ通知とかできるし、shofoo! チラシアプリとか未だに見られているし。
濱野:めっちゃ効くと思う。
前半はここまで!
すでにお腹いっぱいって説もありますが、後半も近日公開!
Q
彼の発案により、実際の非ゲームアプリの中の人を AppLovin オフィスにお招きして対談してしまいました!
勝手にスピンアウト企画w
小売・飲食のアプリ領域で革新的な取り組みをされているということもあり、相当とんがった貴重な内容になっていると思います!
[ゲスト]
濱野 幸介さん (良品計画)、神谷 勇樹さん (リノシス)
[モデレータ]
向井 俊介さん (App Annie)、坂本 達夫どん (AppLovin)
[議事録]
高木 千尋さん、芳田 佳奈さん (いずれも App Annie)
<以下敬称略>
MUJI passport の中の人 濱野さん
濱野 幸介
良品計画 WEB事業部 CMT
兼 クラスメソッド執行役員マーケティングテクノロジー担当
坂本:よろしくお願いします。濱野さんの肩書きの「CMT」って何なんですか?
濱野:「チーフマーケティングテクノロジスト」です。無印良品の中の Web 事業部にいまして、3 年前からアプリ「MUJI passport」に関わり始めました。
坂本:マーケティングテクノロジスト、カッコいいw その前はどちらにいらっしゃったんですか?
濱野:2000 年から 2008 年までアクセンチュアにいて、そのあとリヴァンプに入りました。
坂本:おぉリヴァンプ...社長の湯浅さんと仲いいです、ゼミの先輩でして。
濱野:えー、世界狭いですね!当時リヴァンプは企業再生をメインにやってましたけど、2008 年ぐらいから IT とマーケティングについての会社を作ってちゃんとやろうということで、新しく「リヴァンプ・ビジネスソリューションズ」という IT の社長を 4 年位やってたんですよ。
坂本:アクセンチュアとかのように、コンサルをして、システム入れて、上流から開発・運用までやるイメージですか?
濱野:というよりは「事業を伸ばすために IT をどう使うか」というところを磨く会社で、人材も含めてクライアントに内製化を推奨して支援するようにしていたんです。上手く回るようになったら切ってくれてもいいです、と。
坂本:面白いですね。離れることがゴールということですね。
濱野:なかなか離してくれないんですけどね(笑)。で、その初期のほうでやっていたのが良品計画で、本部向けの業務の仕組みとかを作ったりしていました。
坂本:へぇー。濱野さんご自身も現場で?
濱野:元々はインフラエンジニアでしたよ。
坂本:ゴリゴリに書いてたんですね。
濱野:はい。リヴァンプ時代には東急ハンズさんの CRM のお手伝いみたいなのもやっていて。その噂が (当時 良品計画 WEB 事業部長の) 奥谷さんの耳に入って、捕獲された的な(笑)。
坂本:そういう流れでジョインされたんですね。
濱野:で、そこから 3 年ぐらいかけて MUJI passport を作って、その間は分析官としてデータを分析するなどしていました。実際にプログラムも書いたりもしましたね。
リノシス代表 神谷さんは元すかいらーく・GREE
神谷 勇樹
株式会社リノシス 代表取締役
株式会社PKSHA Technology
坂本:じゃあ次は神谷さんのプロファイルを教えてください。
神谷:直近まではすかいらーくにいて、データ分析やアプリや CRM の立ちあげをやっていました。その前は GREE に 3 年ほどいて、
坂本:なんと、GREE にいらっしゃったんですね。ゲームを作られてたんですか?
神谷:ゲームではなく事業企画とかプラットフォーム寄りですね。GREE のときはホント雑多なことをやっていて、San Francisco の立ち上げでオフィス探したり、借りたオフィスにネットワークを敷いたり、並行して会社買収に向けたデューデリや交渉や VISA の申請をしたり。その後日本に帰国したあとは、事業企画にいたのになぜかデータ分析をするための仕組みを開発して KPI 分析したり。
坂本:へぇ〜。
神谷:当時 GREE の売り上げが半年で 2 倍ってペースで急成長していた時期で、スマホどうするんだっけ?ブラウザゲームとネイティブとどっちがいいんだっけ?みたいな議論がされていましたね。ガラケーのゲームをそのままスマホに移植してもどうにかなっちゃった、みたいな時代です。
坂本:ネイティブ全盛になるより前の時代ですね。
神谷:そうですね、2013 年くらい。それからすかいらーくに入りました。
坂本:凄いジャンプですよね。なんですかいらーく?元 GREE の人とか、ネット畑の方とかいらっしゃったんですか?
神谷:いや、いないですね。
坂本:ですよねw普通行かないですよねww
神谷:行かないですね(笑)。当時 35 歳位だったので、次の職場で大きな成果を出したいと思っていて。それまで分析や IT / ネットの近くにいたんで「自分のスキル・ノウハウが活きる、まだそういうのが活かされていない」企業にいくべきだと思ったんですよ。例えばリクルートとかは選択肢から真っ先に消えました。そうじゃないところを探して。
坂本:割とレガシーなところを狙ったわけですね。
神谷:そう。残ったのはマクドナルド、スシロー、すかいらーくで。
坂本:なるほど、渋いっすねえ。
ネット業界の “常識” は飲食業界でどう活用されるのか?
神谷:「数字を見て分析して PDCA を回す」というのがネット業界ではちゃんとやられていて、むしろそれがド真ん中ですけど、結構その他の業界ってそれが真ん中じゃなくて、思いつきで意思決定されているようなところもあって。こういう商品を作りたい、とか職人がそのまま経営している感じだったりするんで、例えば寿司屋だったら「この中トロとこの設備どっちに投資するのどっちがいいんだっけ?」みたいのが並列にならんじゃうイメージ。
坂本:中トロと設備投資が天秤にかけられるとかww
神谷:データとかシステムとかを本気でやってるところが少なかったから、これならちょっとやればすぐ成果でるだろうと。ネットの業界でやっていたことを外食で横展開してみたらどうなるか、というチャレンジですね。
坂本:なるほどー。
神谷:当時テレビ CM をすごくやっていたんですが、ちゃんと分析してみたら、実は TVCM よりも新聞折込チラシの方がかなり費用対効果が高いことが分かって。
坂本:へー新聞折込チラシが。
神谷:実は使えるメディアで。新聞折り込みが入れられるところは全部入れました。で、残ったお金でデジタル立ち上げた感じです。最初の年から半年くらいで広告宣伝費は 10% 以上、数億円規模で減らして、売り上げ成長がここ最近で最高、みたいな。
坂本:一般的な肌感覚がわからないんですけど、売上に対する広告宣伝費って飲食業界はどのくらいが相場なんですか?
神谷:1.5~1.6% 位ですね。マクドナルドが一番使ってて、3% ちょいとか。
濱野:マクドナルドの売り上げ規模で 1.5~3% とかなので、それよりシェアが小さいチェーンが同じぐらいの割合の広告宣伝費を使っても、数倍の開きがあるんですよね。中途半端に同じことやっても、かき消されるんですよ。
坂本:そっか、売り上げ規模が違うから、かけてるパーセンテージが一緒でも額が全然違うんですね。
神谷:飲食業界では大きくても広告費は数十億円で、自動車とか化粧品とかゲームにはかなわないんですよ。でもネットの広告だけではマスにアプローチするのはきついので、自社で媒体作った方がいいんじゃないのってなって。
そんなにダウンロードされてるの!? すかいらーくのアプリ
神谷:リアルのお店があるので顧客接点は強いんですよ。当時のすかいらーくは、お客さん 1 人あたりの年間平均来店回数が 3〜4 回で、ユニークで 7,000 万人くらい、人口の 6 割くらい。ファミレス嫌いで絶対こないような方を除くと、既に結構来てはいただいていると。なので、年 3〜4 回の来店のときに何か顧客接点を作って、リピートを増やすことができればいいよね、と。
坂本:3〜4 回なんですね。思ってたより少ない。
神谷:少ないですよ、だからアプリができるギリギリくらいなのかなと。
濱野:3〜4 回か、うちより少ないですね。
神谷:当時、すでに携帯のメルマガ会員が 900 万くらいいたんですが、そこに対してあまりやってないよね、ちゃんとやればもっと行くよねと。で、アプリを作ってそれらのユーザーにアプローチして、最初の 1 年で 500〜600 万 DL いって、さらに半年たって 700 万 DL くらいユーザーいるんですけど。
濱野:越された…!(笑)
すかいらーくグループのアプリ (iOS | Android) |
坂本:メルマガだけでそんなに集まったんですか?
神谷:いや、色々頑張ってますよ(笑)。小売ってすごい面白くて、店舗っていうすごい強い顧客接点があって、そこを上手く使うと一気に集客できるんですよ。この間の坂本さんが出てた対談記事 (非ゲームアプリのマーケティングについて語ったよ) を読んでそうだよなあって思ったのが、非ゲームの業界でも小売とか飲食ってやっぱりアプリやった方がいいなあって。実際 100 万人ぐらいのユーザー数があれば、売り上げ貢献でも億単位とかいくってことが経験上分かってるので、やらないのがもったいない。
坂本:なるほど。お二人の話を伺っていて共通していたのが、アプリは「CRM (*)」っていうところ。まずゲームでは出てこないキーワードですよね。顧客管理の一環としてのアプリなんだな、って感じて。
* Customer Relationship Management = 顧客管理システム
神谷:GREE では言ったことないですね(笑)
坂本:ゲームだとアプリを出して、ユーザーがアプリの中でお金を使えばよっしゃ、なんですけどそうではないんだろうなって思って。なので、何のためにそもそもアプリを始めて、今は何のためにアプリをやっていて、何が達成できたらアプリは成功といえるのかを社内的に定義しているのかを聞きたいです。
アプリの小売・飲食の企業における役割と KPI
神谷:小売・飲食だと売り上げが全てに近くて、それを底上げできたか、みたいなところですね。
坂本:売り上げは店舗の売り上げですか?
神谷:そうです。アプリ使ったお客さんからの売上っていうだけじゃなくて、アプリが無かったらそのお客さんは来なかったんだっけ?というのも見ていて。
坂本:どれだけ純増に貢献したの、ってことですね。
神谷:某企業でいうとレジ通過の 10〜20% がアプリ使っているんですけど。
坂本:結構多いですね。
濱野:まだ 10〜20%?
坂本:えっ。
神谷:まだ 10〜20% です。無印良品は 30% くらいでしょ?
濱野:30% くらい。レジ通過に占めるアプリ利用率が KPI です。
神谷:それだと、全体売上が 1,000 億円くらいだとすると、100〜200 億くらいがアプリ経由って感じなんですけど、当然その中でもアプリが無くても来た人いますよね?と。アプリがあった “からこそ” 来たお客さんの売上貢献ってどれくらいなの、っていうのをちゃんと計算していて。
坂本:それはアプリを使っているユーザーの過去のデータを見て、来店頻度や単価がこれくらい上がったよね、というのを見てるんですか?
神谷:2 パターンあります。1 つはクーポンを出すみたいな施策で、解りやすくて、クーポンを配布している人とそうじゃない人を比べて見てます。クーポン無くても来る人ってこれくらいいたよね、クーポン出した人はこれだけ来てたから、クーポンの効果ってこれくらいだよね、というやり方。
坂本:なるほど、クーポンを配ったかどうかでユーザーを分けて、差分を見るわけですね。
神谷:もう 1 パターンは坂本さんが今言った通り、その人の過去の履歴と比べてみる。来店頻度が、アプリを出す前後でどう変化したのかを見比べる。
坂本:アプリを DL する前から同じユニークのユーザーを追っかけてる、ってことですか?
神谷:運が良いと、T ポイントとか Ponta ポイントとかがあるんで、ID を追っかけられるんですよね。
坂本:あー、なるほど。
濱野:うちは “before アプリ” のデータがなかったんすけど、追っかけ方は基本一緒です。
ここでハンバーガー到着、以下食べながらmgmg |
坂本:さっき無印良品の KPI はアプリ利用率っておっしゃってましたよね?
濱野:はい。元々 MUJI passportになる前の話なんですが、無印良品でも CRM みたいなことをしたいよねっていう話になった。なんとなくわかると思うんですけど、無印良品ってすごくファンに支えられている会社なんですよね。
坂本:ぼくも文房具とか好きで、愛用してます。好きな人はめちゃめちゃ好きですよね。
濱野:だから管理と言うより、より多く無印良品というブランドに触れてもらって、結果として客数が増えて、売り上げも上がるよね、っていうのが元々の発想なんですよね。だから元々の名称も passport じゃなくて「MUJI ファンクラブ (仮)」という名前だったんですよ。
一同:ベタですねー(笑)
物理的な会員カードの限界と、アプリ化の狙い
濱野:だから最初はアプリの話じゃなくて、物理カードを配って会員と名乗ってもらってコミュニケーションするというのを考えていたんですよ。
坂本:コンビニでとかよくある「T ポイントカードありますか」、みたいなやつですね。
濱野:そう。ただ、やる前からいろいろ問題もわかっていて。その大きなものの 1 つが、紙のカードでやってしまうと、後から WEB に引き上げないといけないんですよね。ユーザー情報を登録してもらわないと色々わからないし、コミュニケーションも取れないんですけど、その登録率が悪かったり、情報入力を間違うっていうのは事前にわかってたんです。自分自身、他社の会員プログラムを、リヴァンプ時代にやってたりしたから。
坂本:紙でやっちゃうとそのあと正確な情報に昇華できないよ、と。
濱野:そう。あと、発行してる枚数に対して、得られているアクティブな情報が少ないというのもある。
坂本:50 万人に配ってるのに、会員情報まで取れているのは 2 万人しかいません、みたいな?
濱野:そこまで行ってくれればいいくらいの。
坂本:そんなレベルなんですね。
濱野:そんなレベルに下手したらなっちゃう。で、色々考えてたのが 2012 年の頃で、2013 年に初めてスマホ普及率が 40% くらいになると言われていた時代なんですが、まずアプリの方に舵を切って PR を含めて出してみようということになって。クリエイティブディレクターの方と一緒に、名前やコンセプトから決めて、出したのが MUJI passport というアプリだった。
MUJI passport |
坂本:最初から紙じゃなくてアプリで始めてたんですね。
濱野:正確には「アプリを中心として」っていう感じ。アプリから入れない人もカバーできるように作ってありました。
坂本:例えば、まだスマホ持っていない人とか?
濱野:そうそう。スマホのアプリだけじゃなくてガラケーでも、ログインするとちゃんとバーコードが表示されるようにしてあったんですよ。その他のものも全部カバーしてありました。例えばハウスカードを発行してるので、ハウスカードでも会員。
坂本:ハウスカードってクレカですか?
濱野:そうです、クレディセゾンさんから発行してもらっています。元々アプリの前から MUJI Card も発行していたので、そういう人も皆このプログラムに入れるように、ってしてます。だからアプリがリリースされたその日から、ハウスカードは会員証になって、それまでは単に決済する道具でしかなかったけど、これも会員証にもなるようにしました。
坂本:なるほど、面白い。
濱野:だからアプリはあくまで一つでしかないんですね。その上で何を KPI にするのか、というところなんですけど、アプリを使って売上をどのくらい上げられるのか、に関係してくるんです。元々色んなプログラムやってて分析ができてたらそこから何%上がったか分析できるんですけど、before がなかったのでそこはわかりませんと。
坂本:before / after の比較が出来ないわけですね。
濱野:ただ確実に言えるのは、発行したこのポイントでどれくらい売りが上がったのかっていうのは測定できるので、その部分はこれくらい効果ありましたよねとは言える。できれば、さっきの神谷さんのお話のように、ポイント配ってない人に比べてこれだけ上がってるんだから、クーポン使ってない人でこれだけ上がってるんだから、っていうパーセンテージで語るわけです。
坂本:差し支えなければ、実際どれぐらい効果があるのかって教えてもらえますか?
濱野:会員になっていただけた方のレジ通過がプラス 1 回、というのが元々の意図で、実際の来店の回数も 1 回分くらいは増やせてきてて、客数は前年と比べても調子がよかった、っていうのが結果です。
坂本:でも、ニワトリとタマゴじゃないですけど、「そもそもアクティブな人がアプリをやってるんでしょ」っていう可能性もあると思うんですよね。アプリをやったからアクティブになったのか、元々アクティブだった人がアプリを使ってるだけなのかでいうと、アプリにお客さんを寄せていくときちんと数字も伸びていくっていうのがデータや感覚的に見えてるんでしょうか?
濱野:少なくとも色んなデータを分析していると、上がっているよねというのが見えていました。
アプリの DL 数を増やす仕掛けと仕組み
濱野:あと現場の感覚も結構大事で、というのも、現場で一声かけてもらうかどうかによってアプリの DL 数が劇的に変わるんですよ。
坂本:実際に店舗で「アプリはお持ちですか?」って声かけるように、店舗への周知をやったんですか?
濱野:はい。リリースの時にそれが一番重要だからとしこたま言いました。最初から、必ず「パスポートお持ちですか?」と声かけてもらうようにしました。無印良品の場合、それが成功したんですよ。成功しないケースも結構多くて、例えばアプリの登録エラーが頻発して「なんで登録できないんですか?」って店員さんがお客さんに言われたりすると、店員さんが結構声をかけなくなったりするような現象が起きる。
坂本:店員さんがちょっと嫌になっちゃったり?
濱野:はい、それって結構多いんですよ。例えばフィーチャーフォンで felica が会員証になりますって時、felica のロックとメールのドメインのロックがかかってたりして登録できないっていうのがあるんですよね。機種ごとにロック解除の仕方が違うので、毎回のように店員さんに聞かれる。「なんでできないんですか?」って。でも店員さんでは分からないことの方が多い。そうすると「もう言わないでおこう」ってなるじゃないですか。
神谷:私の場合は逆、店員には絶対負荷をかけないようにしてます。
坂本:えー、なんでなんですか?
神谷:今は人手不足でただでさえ現場は大変ですから。。
坂本:余計なことを店員にやらせるな、みたいな?
神谷:そう、絶対にやってもらわない方がいい。だから「店員が何もしなくても DL が伸びるように」って考えてます。やり方はシンプルで、店内のメディアをひたすら使うっていうだけです。
坂本:POP とかポスターとかですか?
神谷:あと大きいのがメニューですね。例えばメニューの値段の横に「このメニューがアプリだと●●円」と書いておけば、損した気分になるじゃないですか(笑)。それでDLしてくれる。毎月 数十万 DL はお店から。
坂本:毎月数十万 DL ってすごいですね、だって普通に 1DL数百円とかかけてたらそれだけで 1 億円前後って規模ですよね。
クーポンの心理経済学
神谷:そうそう。だからインセンティブ設計とかは結構しっかり考えてて。下手するとすごい勢いでお金が出て行っちゃうんで。
濱野:めっちゃ大事。
神谷:500 万ユーザー × 250 円 (割引) だと何億だっけ?みたいな世界じゃないですか。クーポンで色々実験したんです。クーポンって面白くて、種類によって利益に対するインパクトが全然違うんですよ。集客力と利益率の違いで。
坂本:どういうことですか?
神谷:例えば、(携帯の画面を見せながら) こういうお子様ランチ系は原価が安くないから、元々単体では利益は大きくないんですよ。でも、子供は一人で来ないのでクーポンを出すと自動的に親が付いてくる。親は定価に近いような値段で食べてもらえるんで、おしなべるとプラスになる。
坂本:100 円割引しても 3 人で来てたら 1 人 33 円分のコスト、みたいな?
神谷:ですです。ディナーで来ると親は結構粗利が高いものを頼んでもらえるので even になるよね、みたいな。あと例えば、同じ 200 円割引するときも、800 円のメニューを 200 円引くのと 299 円のメニューを 99 円にするのでは効果はぜんぜん違うんですよ。価格弾力性曲線とかも分析してて、いくらからいくらに価格が変わるとどの程度購買意欲が変わるかっていう。
向井:ちゃんとそういう分析されてるんですね。
神谷:ちゃんとやりますよ、商品ごとに。それで値段どうするかを決めてるんですよ。他の例でいうと、例えばデザート。デザートって皆さんそんなに頼まないじゃないですか?ハンバーグ食べて、ライス食べて、コーヒー飲んだらお腹いっぱいになるんで。
一同:確かに(笑)。
神谷:それが、一定程度の値段以下にすると、「こんだけ安くて今だけなんだったら、もったいないから頼もうか」ってなるんですよ。普段のセットに加えて。デザートがあるからライスやめようか、とはならないんで。
一同:ならない。
神谷:そういう意味ではプラスオンになるんですよ。ディスカウントしているようで、粗利としては積んでるっていう。こういうクーポンを使い分けると集客コストで考えても数円とかになるんですよ。そうすると何百万 DL されていても安心。
濱野:コーヒー無料とかもそうですよね?来店そのものの動機にはなる。
神谷:それは業態とかによって結構違っていて。ファーストフードとかカフェ的なところなら「コーヒー無料だったら行ってみようか」ってなるけど、完全にディナーレストラン的なところだったら「コーヒーが無料だから行くか」とはならない。
坂本:確かに...コーヒー無料だからって理由でディナーのお店は選ばないですね。
神谷:逆に、集客はできないのに、みんなもともと食後のコーヒーは頼んでいたはずなのにそれが無料になっちゃって、アドオンにならずに懐だけが痛む。数百円取れてたのが 0 円になって、その数百円がダイレクトに利益を削る。業種によって違うので、特性考えないでやると痛い目にあう。
坂本:今も、同じようなことやられてる他の事業者のクーポンとか、アプリでどういうことやってるとかは見られてます?
神谷:見てます。
濱野:無印良品ではあまり見てないですね。ちょっと他とは違いますからね、再現性がない(笑)。
坂本:どの辺が再現性のなさに繋がってるんですか?
濱野:ハイブランドでもないし、無印良品の競合ってどこ?っていうのが難しい。
向井:ユニクロでもニトリでも IKEA でもないし。
濱野:でもカレーは売ってる(笑)。見方によっては、ハウスメーカーも競合かもしれないんですよ。家売ってるし。
坂本:確かにw家展示してますもんね。
濱野:だから結構難しいんですよ。無印良品の場合は独自の CRM になってるから、他社事例もベンチマークはするけどそのままは真似できないって感じ。
神谷:大衆系のブランドはそのまま真似できるんですよ。例えば同じような飲食店は、基本同じ客層だったりするから、似たようなアプリになってたり(笑)。
濱野:そうですよね。日用雑貨品のお店でもアプリ出してるところ多いですけど、同じようにならないんですよね、やっぱり。
坂本:みんな違うんですね。
濱野:みんな違うし、思ったように DL されないっていう声は多かったりする。そもそも元々の店舗への来店回数をが少ないのに単純にアプリを作っちゃったりすると、意味あるの?ってなる。逆にスーパーマーケットとかは来店頻度も高くて、元々会員カードやってるし、合ってると思うんだけど、なかなかやらないですよね。
坂本:めっちゃ効きそう。頻度多いし、チラシみたいなプッシュ通知とかできるし、shofoo! チラシアプリとか未だに見られているし。
濱野:めっちゃ効くと思う。
前半はここまで!
すでにお腹いっぱいって説もありますが、後半も近日公開!
Q
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